「鯖街道」と呼ばれる道がある。日本海で獲れた新鮮な魚を若狭から京へ運ぶため数百年前から使われていた道で、今も同様に使われている。
「へしこ」は、この地域に伝わる伝統食で、鯖を糖漬けにした保存食だ。その製法は少なくとも1000年以上昔から受け継がれている。私は最近、この食文化を紹介するため、NHKの仕事でここ福井県の美浜を訪れた。
淡水と海水の混ざり合う美しい湖。そのほとりの村を散策しながら私は何世紀も前にタイムスリップした。この土地の静けさと穏やかさに深く感動し、少なくとも3か月はここに住み、本を一冊書き上げたいと思った。
私は、今も毎日集まって、へしこを作り続けている5人のおばあちゃんたちに出会った。彼女たちが作るへしこは、都市部やホテルのレストランで一尾2.000円で売られている。それは十分にそれだけの価値がある。究極の美昧、素晴らしい文化だ。
私たちは特別な古い製法で作られたへしこをいただいた。昧わい深いお茶漬け、刺身、モダンなスパイスの効いたパスタまで。食事をしながら私たちは、野菜畑をイノシシから守る方法や、いい奥さんの見つけ方などについて語り、笑い合った。故郷に戻ったようだった。
彼女らの地域文化は、暮らしのあり方をつくり出すとともに、人間としての幸せや伝統文化への愛を刺激する。その報酬は、幸せな暮らしと現金収入だ。彼女らの活動がお金の螺旋をつくっていく。顧客からの感謝の気持ち、それが本当の報酬。
私はその夜、小浜の小さなホテルに泊まり、ビールを買いに近くのコンビニに行った。ビール売場の前にいたのは、30歳ほどの出張中の営業ウーマン。彼女がその日よい一日を過ごさなかったことは明らかだった。彼女の身体は疲れ、むくんでいた。彼女の暮らしや収入の得方は、彼女の身体や未来を蝕み、誰も幸せにしていないように見えた。
京都から東京への新幹線では、座席に身を投げ込むように座るサラリーマンが目についた。禁煙でも煙草が我慢できす、ビールも楽しむというより流し込んで飲んでいた。慌ただしく本社に電話をかけ、電話越しに何度も頭を下げ、大嫌いな宿題の合間に時聞を貧る子どものように眠りに落ちた。このような収入の得方は、彼らを徐々にダメにしていく。
お金を儲けることは、この地球と私たち自身を殺すこと。文化を深めることは、地球という家を育み、私たち自身や子どもの暮らしをつくること。報酬は自ずと循環する。
- vol.0 地域社会の持続的発展に向けて
- vol.1 悪いのはお金ではない。私たちだ!
- vol.2 山のように考え、葉っぱのように生きよう。
- vol.3 贈り物をする日
- vol.4 3つのホログラム
- vol.5 私たちはなぜ服を買うのだろう?
- vol.6 金融機関はどうしたら図書館になれるか?
- vol.7 鯖街道
- vol.8 お金
- vol.9 生誕説を見直そう
- vol.10 銀行をつくろう
- vol.11 遺産とは
- vol.12 ご先祖様は見ている
- vol.13 収穫
- vol.14 愛か?お金か?
- vol.15 明けましてオメデトウ?
- vol.16 明日の経済を育てる
- vol.17 梅雨と月の螺旋(スパイラル)
- vol.18 事業コスト?
- vol.19 通貨の栄養素
- vol.20 選挙!!
- vol.21 愛と平和?
- vol.22 スプリング・マネー 
- vol.23 コモンズ
- vol.24 感謝
- vol.25 ECO-nomy 取った分より多く返す!
- vol.26 ポスト経済成長?ローカライゼーション!
- vol.27 地域でシェアするエコノミー
- vol.28 物々交換は過去のもの?
- vol.29 未来を育てるお金
-
vol.30 [最終回] そして日は暮れる