種をまこう!

「事業コスト」とは会計用語で、何かを生産するためにかかる費用のこと。例えばりんご1個には、種、肥料、水、ガソリン、税金、利子、社会保障、保険、輸送、労働力、倉庫、広告、商品陳列等々すべてがコストと呼ばれる。りんご1個の値段の背景には、このコストがある。

この13年間で、インドの農民の自殺者が30万人に達した。種や化学肥料の多国籍企業はインドの農民たちを従来の農地から離れた自社の化学肥料を撒いた土地で、F1種栽培のために雇う。農民たちは、自前の種を育てることも前年の収穫から種を取ることも禁じられ、この企業の種と肥料の購入を強要される。

ここ数年F1種も化学肥料も値上がりが続いているが、契約は継続する。こうしてインド農家は破産する。その敗北感と恥の意識は甚大で、出口も支援も見出せない。これが30万人の自殺の背景だ。これも事業のコストだろうか?それとも何か別の事業計画が進んでいる?

栄養豊富で土地に合ったインドの在来種はすべて失われ、地域経済も破壊され、村も荒廃した。地域の食文化は永遠に失われてしまった。都市だけでなく田舎にも新世界秩序が入り込んでいる。この世界規模の問題は、どのようなビジネスのコストなのだろうか?

私たちは皆、地球という大きな家に暮らしている。誰も一人で生きることはできない。私たちも森の木々と同様、競争ではなく協力することで育つ。もし誰かの犠牲で誰かの蓄えが増えるとしたら、それはよいビジネスと呼べるだろうか?共に働き、全員の蓄えが少しずつ増えるほうがよくはないだろうか?

このような現状は、インドだけではない。メキシコ、アフリカなども同様。日本はどうだろう?

TPPの背後にあるのは、化学業界による新たな農業プログラムだろうか?

日本はトウモロコシの95%を輸入し、その大半はファストフードの牛肉の飼料となっている。このトウモロコシの95%がF1種だ。この費用と日本のトウモロコシのDNAも日本から流出している。1990年代、アメリカの農家も同じ問題で年間約5万件が倒産していった。2006年のUNCTADの報告書にも「垂直統合により世界のフードシステムにおけるプレーヤー数の激減が確認されている」とある。

モンサント社は世界の商業用種の5分の1を所有している。これは25億USドル以上に相当する産業で、マイクロソフトの独占に匹敵する規模だが、独占禁止を取り締まる諸機関からは何のお咎めもない。05年にはたった3社が世界の穀物取引の90%を所有し、別のたった3社が、世界の農業化学製品の半分を牛耳っていた。これら企業の利益は驚くべき数字だ。

私たちの食べもののDNAは、彼らに任せておいて安全だろうか?

私たちは今、「遺伝子革命」の時代に入っている。私たちのDNA、未来を取り戻さなければならない。それは私たち自身のいのちの資産であり、子どもたちそのものだ。今、私たちの資産は誰の手にあるだろう?

私たちのDNAは、このビジネスを推し進めている者たちのコストに過ぎないのか?


謝辞:このページは、一般社団法人全国信用金庫協会のご厚意により、業界機関誌「Monthly信用金庫 2016年8月号」掲載の本稿を転載させていただきました。